マザー・テレサの名言を調べると、「家に帰って家族を愛してあげてください」「思考に気をつけなさい」など、たくさんの言葉が見つかります。
ところが、その中には本人の言葉ではないものや、元の発言を大きく言い換えたものが少なくありません。
マザー・テレサの言葉は、1979年のノーベル平和賞の演説のように記録が残っている発言から読むと、本人の考えを正確につかめます。
演説の原文で確かめられる言葉には和訳と背景をそえ、本人の言葉として広まった誤引用は別に取り上げています。
この記事のポイント
- 確かな言葉は1979年のノーベル平和賞の演説に残っている
- 「愛は家庭から始まります」は演説の原文で確かめられる
- 「家に帰って家族を愛して」は演説を言い換えた言葉
- 「思考に気をつけなさい」「逆説の10カ条」は本人の言葉ではない
マザー・テレサはどんな人か
マザー・テレサは、1910年に現在の北マケドニアのスコピエで生まれた、カトリックの修道女です。
18歳でアイルランドの修道会に入り、インドのカルカッタ(現在のコルカタ)で1948年まで女学校の教師を務めました。
その後、路上で暮らす貧しい人々や病気の人々の世話に身をささげ、1950年に修道会「神の愛の宣教者会」を設立しました。
1979年にノーベル平和賞を受け、1997年に87歳で亡くなったのち、2016年にカトリック教会の聖人に列せられています。
本でまとめて読みたい場合は、『マザー・テレサ 愛と祈りのことば』(PHP文庫、2000年)があります。
ホセ・ルイス・ゴンザレス-バラドが編集し、ノートルダム清心学園の理事長を務めた修道女の渡辺和子さんが翻訳した語録集です。
祈り、家庭と家族、ほほえみ、苦しみなどのテーマ別に、修道女や協力者たちへ語った言葉がまとめられています。
\ 語録を手元に置くなら /
ほかの偉人の言葉もあわせて読みたい方は、偉人の名言を出典と背景つきで紹介した記事も参考にしてください。
出典が確かなマザー・テレサの名言一覧
まずは、この記事で紹介する言葉を、英語の原文と出典つきで一覧にします。
和訳は、原文の意味が伝わるように当サイトで訳したものです。
| 名言(和訳) | 英語の原文 | 出典 |
|---|---|---|
| 愛は家庭から始まります | Love begins at home | ノーベル平和賞の受賞スピーチ・講演(1979年) |
| 大切なのはどれだけ多くをするかではなく、どれだけ愛を込めるかです | it is not how much we do, but how much love we put in the action that we do | ノーベル講演(1979年12月11日) |
| 大きなことではなく、小さなことに大きな愛を込めて | not in big things, but in small things with great love | ノーベル講演(1979年12月11日) |
| 痛みを感じるまで与え合わなければなりません | we, too, must give each other until it hurts | ノーベル講演(1979年12月11日) |
| ほほえみは愛の始まりです | the smile is the beginning of love | ノーベル講演(1979年12月11日) |
どの言葉も、ノーベル財団の公式サイトに載っている演説の記録で確かめられます。
英語の名言をほかの偉人の言葉でも読みたい方は、英語で学ぶ偉人の名言の記事もあわせて読んでみてください。
ノーベル平和賞の演説で語った言葉
マザー・テレサは1979年12月10日にオスロで受賞のスピーチを行い、翌11日にはノーベル講演を行いました。
講演の冒頭で、彼女は修道会で毎日唱えているアッシジの聖フランシスコの祈りを、会場の人々と一緒に唱えることから始めています。
ここでは、2つの演説の中から、今もよく引用される言葉を背景とあわせて紹介します。
愛は家庭から始まります
「愛は家庭から始まります」は、2つの演説のどちらにも出てくる言葉です。
ノーベル講演では、この言葉に続けて「大切なのはどれだけ多くをするかではなく、どれだけ愛を込めるかです」と語っています(出典:ノーベル財団)。
この賞を受けて家のない人々のための家をつくりたいと述べたうえで、愛はまず身近な場所から広がっていくと考えていたことが分かります。
活動の大きさより、一つひとつの行いにどれだけ心を込めるかを大切にする考え方です。
小さなことに大きな愛を込めて
講演の終わり近くで、マザー・テレサは「大きなことではなく、小さなことに大きな愛を込めて」人を愛することができれば、ノルウェーは愛の巣になると語りかけました。
「私たちは大きなことはできません。小さなことを大きな愛をもって行うだけです」という名言は、この言葉が言い換えられて広まったものと考えられます。
特別な力がなくても、日々の小さな行いを通じて人を大切にできるという意味で受け取れます。
痛みを感じるまで愛する
講演では「私たちも、痛みを感じるまで与え合わなければなりません」と語り、受賞スピーチでも「本当の愛は痛みを伴うものです」と述べています。
その例として紹介されたのが、砂糖が手に入りにくかった時期のカルカッタでの出来事です。
4歳のヒンドゥー教徒の男の子が、3日間砂糖を食べずに、自分の分をマザー・テレサの子どもたちに届けたという話でした。
余ったものを分けるのではなく、自分が我慢してでも相手を思う行いこそが愛だと伝えるための話です。
彼らもおなかをすかせているのです
講演と受賞スピーチの両方で語られたのが、長く食べ物のない8人の子どもがいるヒンドゥー教徒の家族に、米を届けたときの話です。
母親は受け取った米を2つに分け、隣に住むイスラム教徒の家族に半分を届けに行きました。
理由を尋ねたマザー・テレサに、母親は「彼らもおなかをすかせているのです」とだけ答えたといいます。
自分が苦しい中でも隣人の苦しみに気づいていたことに、マザー・テレサは強く心を動かされたと語っています。
ほほえみは愛の始まりです
講演の後半で、マザー・テレサは家族どうしでもほほえみ合うのが難しいことがあると語り、「いつもほほえみをもって会いましょう、ほほえみは愛の始まりなのですから」と呼びかけました。
講演の中では、何不自由のない老人ホームで、入居者がみな入口の扉ばかり見つめ、誰もほほえんでいなかったという体験が語られています。
息子や娘が訪ねてくるのを待ち続けていたのだと知り、物が満たされていても愛に飢えることがあると伝えています。
西洋の貧しさは取り除くのが難しい
講演では、路上で飢えている人には一皿のご飯や一切れのパンを渡せば、その飢えを満たすことができると語っています。
一方で、社会から締め出され、必要とされず、愛されていないと感じている人の貧しさは、取り除くのがとても難しいと述べました。
物の豊かな国にある孤独を「西洋の貧しさ」と呼び、身近な人への関心を持つよう呼びかけた部分です。
マザー・テレサと日本
マザー・テレサは、1981年・1982年・1984年の3回、日本を訪れています。
1981年4月の最初の来日では、東京の山谷地区や大阪の西成区あいりん地区を訪ね、上智大学などで講演しました(出典:カトリック中央協議会)。
1982年4月には長崎の原爆資料館を、1984年11月には広島の平和記念資料館を訪れ、各地で平和の集いに参加しています。
日本での講演の言葉として紹介される文章は多くありますが、その多くは記録の出どころがはっきりしないため、この記事では取り上げていません。
本人の言葉ではない・言い換えられた名言
マザー・テレサの修道会がつくるマザー・テレサ・センターは、本人の言葉ではない言葉や、大きく言い換えられた言葉の一覧を公開しています(出典:Mother Teresa Center)。
ここでは、日本でもよく見かける言葉を取り上げます。
「家に帰って家族を愛してあげてください」
「世界平和のためにできることは、家に帰って家族を愛することです」という言葉は、マザー・テレサ・センターの一覧で、本人の言葉を大きく言い換えたものとされています。
受賞スピーチで実際に語られたのは、祈りから愛が生まれ、その愛で「まず自分の家庭で、次に隣人に、自分の住む国で、そして世界中で」何かをしようという呼びかけでした。
家庭から始めるという点は同じですが、元の言葉は家庭から世界へ愛を広げていくことまで含んでいます。
「思考に気をつけなさい」
「思考に気をつけなさい、それはいつか言葉になるから」で始まり、言葉・行動・習慣・性格・運命へと続く一節も、マザー・テレサの著作や演説では確認できません。
名言の出典を調べているQuote Investigatorによると、確認できる最も古い例は1977年5月のアメリカ・テキサス州の新聞で、スーパーマーケットチェーンの経営者フランク・アウトローの言葉として紹介されています。
2011年の映画『マーガレット・サッチャー 鉄の女の涙』で、サッチャーが父親の教えとして語ったことでも広く知られるようになりました。
「それでもなお」逆説の10カ条
「人は不合理で、わからず屋で、わがままです。それでもなお、人を許しなさい」と続く詩も、マザー・テレサの言葉として広まっています。
実際には、アメリカのケント・M・キースが19歳のハーバード大学生だった1968年に、学生リーダー向けの小冊子に書いた「逆説の10カ条」がもとになっています(出典:The Paradoxical Commandments)。
この詩がカルカッタの子どもの家「シシュ・バワン」の壁に掲げられていたことが1995年の本『A Simple Path』で紹介され、本人の言葉だと誤解されるようになりました。
「愛の反対は憎しみではなく無関心です」
「愛の反対は憎しみではなく無関心です」も、マザー・テレサの言葉として紹介されることが多い言葉です。
この言葉は、作家エリ・ヴィーゼルが1986年の雑誌インタビューで語った言葉として知られ、さらに古い似た表現も見つかっています。
マザー・テレサの演説にも「必要とされない孤独こそが深い貧しさだ」という考えはありますが、この言い回しそのものは本人の記録では確認できません。
そのほかの誤引用
マザー・テレサ・センターの一覧では、次の言葉も本人の言葉ではない、または大きく言い換えたものとされています。
- 人生とは機会です、そこから恩恵を受けなさい(「人生とは」で始まる詩)
- 神様は私たちに成功を求めてはいません、挑戦することを求めているだけです
- この世界には、パンへの飢えよりも愛と感謝への飢えのほうが大きい
- 人を裁いていたら、その人を愛する時間がなくなります
どれも本人の考えに近い内容ですが、スピーチや文章で本人の言葉として紹介するときは、演説の原文の言い回しを使うほうが安心です。
マザー・テレサの名言に関するよくある質問
マザー・テレサの代表的な名言は何ですか?
記録が残っている言葉では、1979年のノーベル平和賞の演説で語られた「愛は家庭から始まります」がよく知られています。
英語の原文は「Love begins at home」です。
「思考に気をつけなさい」はマザー・テレサの言葉ですか?
本人の著作や演説では確認できません。
確認できる最も古い例は1977年のアメリカの新聞で、別の人物の言葉として紹介されています。
スピーチでマザー・テレサの言葉を使うときの注意点はありますか?
ノーベル平和賞の演説など、原文を確かめられる言葉を選ぶと安心です。
ネットで広まった言い回しは、言い換えや別人の言葉であることが多いため、そのまま本人の言葉として紹介しないほうが無難です。
マザー・テレサは日本に来たことがありますか?
1981年・1982年・1984年の3回来日しています。
東京の山谷地区や大阪のあいりん地区を訪ねたほか、長崎と広島の資料館も訪れています。
マザー・テレサの名言のまとめ
マザー・テレサの言葉として広まっている言葉の中には、本人の言葉ではないものや、大きく言い換えられたものが多く含まれています。
本人の考えを知りたいときは、1979年のノーベル平和賞の演説のように、記録が残っている言葉から読むのが確かです。
一つだけ持ち帰るなら、演説の原文にある「愛は家庭から始まります」です。
大きなことをしようとする前に、身近な人へ心を込めることから始めてみてください。