ゲーテの名言としてよく引かれるのが、「人間は努力する限り迷うものだ」や、最期の言葉とされる「もっと光を」です。
ただ、ゲーテの名言として広まっている言葉の中には、ゲーテの作品に見当たらず、別の人の言葉や、英訳者の意訳が混ざっているものもあります。
ゲーテの名言はネット上の定番表現を無条件に本人の言葉とせず、著書・講演・書簡・インタビューなど確認できる出典を優先し、背景まで読むことで考え方を正確につかめます。
「人間は努力する限り迷うものだ」は『ファウスト』第一部の言葉ですが、「成功の秘訣は、やっている仕事を好きになること」はゲーテの作品に見当たりません。
この記事のポイント
- 「人間は努力する限り迷うものだ」は『ファウスト』第一部の言葉
- 「人はただ自分の愛する人からだけ学ぶ」は『ゲーテとの対話』の記録
- 「成功の秘訣は、やっている仕事を好きになること」はゲーテの作品に見当たらない
- 「もっと光を」は最期の言葉とされるが、意味には諸説ある
ゲーテの名言一覧
この記事で紹介する主な名言を、ドイツ語の原文と作品名つきで一覧にします。
| 名言 | ドイツ語の原文 | 出典 |
|---|---|---|
| 人間は努力する限り迷うものだ | Es irrt der Mensch, solang er strebt. | 『ファウスト』第一部 |
| たえず努力して励む者を、われらは救うことができる | Wer immer strebend sich bemüht, den können wir erlösen. | 『ファウスト』第二部 |
| 理論はすべて灰色で、緑なのは人生の黄金の木だ | Grau, teurer Freund, ist alle Theorie | 『ファウスト』第一部 |
| 才能は静けさの中で、性格は世の激流の中でつくられる | Es bildet ein Talent sich in der Stille | 『トルクァート・タッソー』 |
| 人はただ自分の愛する人からだけ学ぶ | Überhaupt lernt man nur von dem, den man liebt. | 『ゲーテとの対話』1825年5月12日 |
| 知るだけでは十分でない、用いなければならない | Es ist nicht genug zu wissen, man muß auch anwenden. | 『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』 |
ゲーテとは
ヨハン・ヴォルフガング・フォン・ゲーテは、1749年にドイツのフランクフルトで生まれた詩人・作家です。
1774年の小説『若きウェルテルの悩み』でヨーロッパ中に名を知られ、翌1775年からはヴァイマル公国に招かれて、国の要職について政治や財政にも長く携わりました。
60年近くをかけて書き上げた『ファウスト』は、第一部が1808年、第二部がゲーテの死後の1832年に発表されています。
植物の形や色彩についての研究もした自然科学者でもあり、1832年3月22日にヴァイマルで82歳で亡くなりました。
新潮文庫の『ゲーテ格言集』は、作品や手紙からゲーテの言葉を集めた定番の一冊です。
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努力と人生についての名言
ゲーテの代表作『ファウスト』には、努力し続ける人間を肯定する言葉が数多く出てきます。
人間は努力する限り迷うものだ
『ファウスト』第一部の「天上の序曲」で、主(神)が悪魔メフィストフェレスに語る言葉で、原文は「Es irrt der Mensch, solang er strebt.」です(出典:Project Gutenberg)。
「努力する限り過ちを犯す」とも訳され、迷いや間違いは、高いところを目指して努力しているからこそ生まれるものだと、人間の不完全さを温かく受け止めています。
たえず努力して励む者を、われらは救うことができる
『ファウスト』第二部の最後の場面で、天使たちがファウストの魂を天へ運びながら歌う言葉です。
「つねによい目的を見失わずに努力を続ける限り、最後には必ず救われる」という形でも知られていて、努力し続けること自体に価値があるという、ゲーテの考え方の集大成とされています。
自由も生命も、日々これを闘い取る者だけが享受するに値する
『ファウスト』第二部で、晩年のファウストが語る言葉です。
自由や豊かな暮らしは、一度手に入れたら終わりではなく、毎日の努力で守り続けるものだという考え方が表れています。
理論はすべて灰色で、緑なのは人生の黄金の木だ
『ファウスト』第一部で、メフィストフェレスが学生に向かって言う言葉です。
頭の中だけの理屈より、実際に生きて経験することのほうが豊かだという、ゲーテの現実を重んじる考え方がよく表れています。
仕事と行動についての名言
政治家として長く働いたゲーテは、知識を実際に使うことの大切さもくり返し語っています。
知るだけでは十分でない、用いなければならない
小説『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』に出てくる言葉で、「望むだけでは十分でない、行わなければならない」と続きます。
英語では「Knowing is not enough; we must apply.」として広く知られ、学んだことを行動に移してこそ意味があるという考え方です。
自分自身に命令しない者は、いつまでたっても下僕にとどまる
晩年の詩集『温和なクセーニエン』に収められた言葉です。
人に言われて動くのではなく、自分で自分を律することができてこそ本当に自由になれるという、厳しい自己規律の考え方です。
活動的な無知ほど恐ろしいものはない
ゲーテの格言を集めた『箴言と省察』の言葉で、日本では「活動的な馬鹿より恐ろしいものはない」という訳でも知られています。
正しい知識がないまま行動力だけがある人の危うさを指摘した言葉で、政治の現場を知るゲーテらしい鋭さがあります。
才能は静けさの中で、性格は世の激流の中でつくられる
1790年の戯曲『トルクァート・タッソー』に出てくる言葉です。
才能を磨くにはひとりで集中する時間が必要ですが、人としての強さは、世の中の荒波にもまれてこそ育つという考え方です。
ほかの偉人の言葉もあわせて読みたい方は、偉人の名言を解説した記事も読んでみてください。
愛と学びについての名言
ゲーテは、人を愛することと学ぶことを、深く結びつけて考えていました。
人はただ自分の愛する人からだけ学ぶ
弟子のエッカーマンが記録した『ゲーテとの対話』の、1825年5月12日の項に出てくる言葉です。
知識はただ伝えられるだけでは身につかず、相手を尊敬し、好きだと思えるからこそ学べるという考え方で、教育の場でもよく引用されています。
愛する人の欠点を美徳と思えない者は、愛しているとは言えない
『箴言と省察』の言葉として知られ、日本では「愛する人の欠点を愛することのできない者は、真に愛しているとは言えない」という形でも広まっています。
相手の長所だけでなく、欠点まで含めて受け入れることこそが愛だという考え方です。
自分自身を知るには、観察ではなく行動によってのみである
『ヴィルヘルム・マイスターの遍歴時代』に出てくる言葉です。
自分がどんな人間かは、頭で考えるより、実際に何かをやってみることでわかるという、行動を重んじるゲーテらしい考え方です。
『ゲーテとの対話』に残る言葉
『ゲーテとの対話』は、晩年のゲーテに約9年間仕えたエッカーマンが、ゲーテの言葉を日付つきで記録した本で、ニーチェが「ドイツ語で書かれた最高の本」とたたえたことでも知られています。
今は世界文学の時代である
1827年1月31日の対話で、ゲーテは「国民文学はもはやあまり意味がない」と述べ、続けて「今は世界文学の時代である」と語っています。
国ごとの文学にこだわらず、世界中の文学が互いに影響し合う時代が来ると見通した言葉で、今の比較文学の考え方にもつながっています。
誤って広まったゲーテの名言
ゲーテの名言として紹介される言葉の中には、ゲーテの作品で確かめられないものもあります。
「人生に成功する秘訣は、やっている仕事を好きになること」
ゲーテの名言としてよく紹介されますが、ゲーテの作品にはこの言葉が見当たらず、英語圏で別の人の言葉として伝わる格言が混ざったものと考えられています。
「人にだまされることは決してない、自分にだまされるのだ」も、作品のどこにあるかを確かめられませんでした。
「できること、夢見ることは何でも始めなさい」
英語圏で『ファウスト』の言葉として有名な「Whatever you can do, or dream you can, begin it.」は、ゲーテの原文にはありません。
1835年にジョン・アンスターが出した、とても自由な英訳が元になっていて、それがゲーテの言葉として広まったとされています。
「もっと光を」
1832年3月22日に亡くなる直前の言葉として知られていますが、部屋が暗いので窓を開けてほしいという意味だったという説もあります。
光と色を研究したゲーテにふさわしい言葉として広まりましたが、どんな意味で言ったのかははっきりしていません。
ゲーテの名言に関するよくある質問
「人間は努力する限り迷うものだ」はどの作品の言葉ですか?
『ファウスト』第一部の「天上の序曲」で、主が語る言葉です。
『ゲーテとの対話』とはどんな本ですか?
晩年のゲーテに仕えたエッカーマンが、ゲーテとの会話を日付つきで記録した本です。
「もっと光を」は本当にゲーテの最期の言葉ですか?
最期の言葉として知られていますが、どんな意味で言ったのかには諸説あります。
「成功の秘訣は、やっている仕事を好きになること」はゲーテの言葉ですか?
ゲーテの作品にはこの言葉が見当たらず、別の人の言葉が混ざったものと考えられています。
ゲーテの名言まとめ
ゲーテの名言はネット上の定番表現を無条件に本人の言葉とせず、著書・講演・書簡・インタビューなど確認できる出典を優先し、背景まで読むことで考え方を正確につかめます。
『ファウスト』を中心に、ゲーテの言葉には、迷いながらも努力し続ける人間への深い信頼が込められています。
「成功の秘訣は…」のように、ゲーテの作品にない言葉が広まっている例もあります。
持ち帰りたい一言を選ぶなら、「人間は努力する限り迷うものだ」です。
気になった言葉は、作品の前後の場面ごと味わってみてください。