リンカーンの名言としてよく知られるのが、「人民の、人民による、人民のための政治」や「私の歩みは遅いが、歩んだ道を引き返すことはない」です。
ところが、リンカーンの名言として広まっている言葉の多くは、本人の演説や手紙に見当たらず、後の時代にリンカーンの名前が付けられたものです。
リンカーンの名言はネット上の定番表現を無条件に本人の言葉とせず、著書・講演・書簡・インタビューなど確認できる出典を優先し、背景まで読むことで考え方を正確につかめます。
「人民の、人民による、人民のための政治」は1863年のゲティスバーグ演説の言葉ですが、「私の歩みは遅いが、歩んだ道を引き返すことはない」は本人の公式記録に見当たりません。
この記事のポイント
- 「人民の、人民による、人民のための政治」は1863年のゲティスバーグ演説の言葉
- 「私の歩みは遅いが…」は、本人の公式記録に見当たらない
- 「意志あるところに道は開ける」は、古いイギリスのことわざ
- 「木を切るなら斧を研ぐ」の話も、リンカーンの言葉ではない
リンカーンの名言一覧
この記事で紹介する主な名言を、英語の原文と出典つきで一覧にします。
| 名言 | 英語の原文 | 出典 |
|---|---|---|
| 人民の、人民による、人民のための政治 | government of the people, by the people, for the people | ゲティスバーグ演説(1863年) |
| 何人にも悪意を抱かず、すべての人に慈愛を | With malice toward none; with charity for all | 第2次就任演説(1865年) |
| 分かれて争う家は立つことができない | A house divided against itself cannot stand. | 「分かれたる家」演説(1858年) |
| 奴隷になりたくないように、主人にもなりたくない | As I would not be a slave, so I would not be a master. | 民主主義についての覚え書き(1858年ごろ) |
| 成功しようという決意こそ、何よりも大切だ | your own resolution to succeed, is more important than any other one thing | アイシャム・リーヴィスへの手紙(1855年) |
リンカーンとは
エイブラハム・リンカーンは、1809年にアメリカのケンタッキー州で生まれた、第16代アメリカ大統領です。
学校に通った期間は合わせて1年に満たず、聖書やシェイクスピアなどを独学で読んで弁護士になりました。
1861年に大統領に就任するとすぐに南北戦争が始まり、1863年には奴隷解放宣言を出しました。
南北戦争が終わった直後の1865年4月、ワシントンのフォード劇場で撃たれ、翌日に亡くなりました。
リンカーンの演説は、日本語訳で読むと、短い言葉の中に込められた思いがよく伝わります。
\ ゲティスバーグ演説を日本語で /
民主主義と自由についての名言
リンカーンの演説は短い言葉で国のあり方を語り、今もアメリカの理念として受け継がれています。
人民の、人民による、人民のための政治
1863年11月19日、南北戦争の激戦地ゲティスバーグに作られた戦没者墓地で行った演説の結びの言葉です(出典:米国議会図書館)。
原文は「government of the people, by the people, for the people, shall not perish from the earth」で、人民の政治をこの世から消し去ってはならないと続きます。
演説は2分ほどの短いものでしたが、戦争の意味を「自由の新しい誕生」のための戦いだと語り直し、アメリカの歴史に残る演説になりました。
分かれて争う家は立つことができない
1858年6月16日、イリノイ州での演説で、奴隷制を認める州と認めない州に分かれたままでは国が続かないと訴えた言葉です。
もとは新約聖書の一節で、聖書になじみのある人々に伝わる言葉を選んで、国が分裂する危うさを語りました。
奴隷になりたくないように、主人にもなりたくない
1858年ごろに書かれた覚え書きの言葉で、「これが私の民主主義の考えだ」と続きます。
自分が支配されたくないなら、人を支配することもしないという、シンプルな平等の考え方が表れています。
他人の自由を認めない者は、自らも自由に値しない
1859年4月6日、ヘンリー・ピアスらに宛てた手紙の言葉で、原文は「Those who deny freedom to others, deserve it not for themselves」です。
奴隷制を守ろうとする人々に向けて、自由は自分だけのものではないと語った、リンカーンの考えの芯にある言葉です。
努力と信念についての名言
リンカーンが手紙に残した言葉には、若い人を励ます率直な助言もあります。
成功しようという決意こそ、何よりも大切だ
1855年11月5日、法律家を目指す若者アイシャム・リーヴィスに宛てた手紙の言葉で、原文は「Always bear in mind that your own resolution to succeed, is more important than any other one thing.」です。
独学で弁護士になったリンカーンだからこそ、学校や環境よりも本人の決意が大切だと説得力をもって語れたのでしょう。
正しいことが力を生むと信じよう
1860年2月27日、ニューヨークのクーパー・ユニオンで行った演説の結びの言葉で、原文は「Let us have faith that right makes might」です。
力の強い者が正しいのではなく、正しいことを信じて貫けば力になるという考えで、この演説をきっかけにリンカーンは大統領候補として全国に知られるようになりました。
正しいことをしている人とは、誰とでも手を組もう
1854年10月16日、イリノイ州ピオリアでの演説の言葉で、原文は「Stand with anybody that stands right.」です。
正しいことをしている間は手を組み、間違ったことをし始めたら離れればよいと続き、党派よりも中身で判断しようという姿勢が表れています。
英語の名言をもっと読みたい方は、英語の名言を解説した記事も読んでみてください。
リーダーシップについての名言
南北戦争の指導者として、リンカーンは敵をつくるよりも、国をひとつにまとめる言葉を選びました。
何人にも悪意を抱かず、すべての人に慈愛を
1865年3月4日、2期目の大統領就任演説の結びの言葉で、戦争で傷ついた国の傷を癒やそうと呼びかけています。
勝利が目前にあっても南部への報復をあおらず、和解を第一に考えたリンカーンの姿勢がよく表れた言葉です。
我々は敵ではない、友人である
1861年3月4日、最初の大統領就任演説で、国から離れようとする南部の人々に向けた言葉です。
戦争が始まる直前にも、最後まで分裂を避けようとしたリンカーンの願いが込められています。
リンカーンの名言として誤って広まった言葉
リンカーンの名言として紹介される言葉の中には、本人の記録が見つからないものが数多くあります。
私の歩みは遅いが、歩んだ道を引き返すことはない
リンカーンを代表する名言として知られていますが、本人の演説や手紙などの公式記録には見当たりません。
「大抵の人々は、自分で決心した程度だけ幸福になれる」も、亡くなってから約50年後の1914年に、新聞のコラムでリンカーンの言葉として紹介されたのが始まりとされています。
意志あるところに道は開ける
リンカーンの言葉として紹介されることがありますが、古くから伝わるイギリスのことわざです。
「人格は木のようなもの、評判はその影のようなもの」も、亡くなった後に出版された回想録に書かれた言葉で、本人が書いた記録は見つかっていません。
木を切り倒すのに6時間あるなら、最初の4時間は斧を研ぐ
準備の大切さを語る言葉として有名ですが、リンカーンの死から約90年後の1956年に、名前のない木こりの言葉として紹介されたものが元とされています。
「40歳を過ぎたら自分の顔に責任を持て」も、リンカーン政権の陸軍長官スタントンの逸話が、後にリンカーンの言葉に変わって広まったと考えられています。
リンカーンの名言に関するよくある質問
「人民の人民による人民のための政治」はいつの言葉ですか?
1863年11月19日のゲティスバーグ演説の言葉です。
「私の歩みは遅いが…」はリンカーンの言葉ですか?
リンカーンの言葉として知られていますが、本人の公式記録には見当たりません。
「意志あるところに道は開ける」は誰の言葉ですか?
リンカーンの言葉ではなく、古いイギリスのことわざです。
リンカーンの英語の名言で短いものは?
「A house divided against itself cannot stand.(分かれて争う家は立つことができない)」がよく知られています。
リンカーンの名言まとめ
リンカーンの名言はネット上の定番表現を無条件に本人の言葉とせず、著書・講演・書簡・インタビューなど確認できる出典を優先し、背景まで読むことで考え方を正確につかめます。
本人の演説や手紙からは、平等と自由を大切にし、分裂した国をひとつにまとめようとした指導者の姿が伝わってきます。
「私の歩みは遅いが…」や「斧を研ぐ」の話のように、リンカーンと関係のない言葉も多く広まっています。
持ち帰りたい一言を選ぶなら、「何人にも悪意を抱かず、すべての人に慈愛を」です。
気になった言葉は、演説の全文にふれて、前後の文脈ごと味わってみてください。