偉人の名言

ヘミングウェイの名言|原文と出典で見る本人の言葉と作品の台詞

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南の海辺の砂浜に古い木の小舟が置かれ、ヘミングウェイの名言と題した帯を重ねたバナー

ヘミングウェイの名言として紹介される言葉の多くは、本人の人生訓ではなく、小説の登場人物が語った台詞です。

なかには、ヘミングウェイの著作や手紙のどこにも見つからない言葉が、本人の名言として広まっているものもあります。

ヘミングウェイの名言は、出典の作品や手紙と、本人の言葉か登場人物の台詞かまで確かめると、誤って広まった言葉と区別して意味を正しく受け取れます。

この記事では、『老人と海』『日はまた昇る』『武器よさらば』などの名言を英語の原文と章をそえて紹介し、本人の言葉ではない「偽の名言」もあわせて解説します。

この記事のポイント

  • 「人間は負けるようにはつくられていない」は『老人と海』の老漁師サンチャゴの言葉
  • 有名な名言の多くは、本人ではなく小説の登場人物の台詞
  • 本人の言葉として確かめられるのは、手紙やインタビューに残る言葉
  • 「心の底からやりたいと思わないなら、やめておけ」は出典が見つからない

ヘミングウェイの名言一覧

この記事で紹介する名言を、英語の原文と出典つきで一覧にします。

「話し手」の列を見ると、本人の言葉か、小説の登場人物の台詞かが分かります。

名言(日本語訳)出典話し手
人間は打ち砕かれることはあっても、負けはしない『老人と海』(1952年)老漁師サンチャゴ
毎日が新しい日なんだ『老人と海』(1952年)老漁師サンチャゴ
よその国へ行っても、自分から逃げることはできない『日はまた昇る』第2章(1926年)語り手ジェイク
昼間なら何ごとにも平気でいられるが、夜は別だ『日はまた昇る』第4章語り手ジェイク
世界は誰をも打ち砕くが、その後、打ち砕かれた場所で強くなる者も多い『武器よさらば』第34章(1929年)語り手フレデリック
この世はすばらしい場所で、戦うに値する『誰がために鐘は鳴る』第43章(1940年)主人公ロバート・ジョーダン
知的な人間の幸福ほど、まれなものはない『エデンの園』(1986年)小説の登場人物
人を信頼できる人間にするには、その人を信頼することだ1953年2月17日の手紙本人
『武器よさらば』の最後のページは39回書き直した『パリ・レビュー』のインタビュー(1958年)本人
本当の文を、ひとつだけ書けばいい『移動祝祭日』(1964年)本人(回想録)

日本語訳は、この記事で原文から訳したものです。

文庫の翻訳では言い回しが違うことがあるため、原文もあわせて紹介します。

ヘミングウェイはどんな作家か

名言の背景を知るために、まずヘミングウェイの経歴を短く押さえておきます。

アーネスト・ヘミングウェイは、1899年にアメリカのイリノイ州オークパークで生まれた小説家です。

新聞記者として働いたあと、第一次世界大戦ではイタリア戦線で負傷し、その経験は『武器よさらば』に生かされています。

1920年代のパリで作家として歩み始め、スペイン内戦や第二次世界大戦も記者として取材しました。

1954年に、『老人と海』に示された語りの技と、同時代の文体に与えた影響を理由にノーベル文学賞を受け、1961年にアイダホ州ケッチャムで亡くなりました(出典:NobelPrize.org)。

むだな飾りをそぎ落とした短い文体で知られ、その文体そのものが、短く引用しやすい名言が多く生まれた理由のひとつと受け取れます。

ほかの偉人の言葉とも見比べたい方は、偉人の名言を出典と背景つきでまとめた記事も参考にしてください。

『老人と海』の名言

『老人と海』は1952年に発表された中編小説で、翌1953年にピューリッツァー賞を受けています。

84日間も魚が釣れない老漁師サンチャゴが、ひとりで沖に出て巨大なカジキと戦う物語です。

人間は負けるようにはつくられていない

ヘミングウェイの名言として最も知られているのが、この言葉です。

原文は「But man is not made for defeat. A man can be destroyed but not defeated.」です。

三日がかりで釣り上げたカジキを、帰り道でサメに食いちぎられていく中で、サンチャゴが自分に言い聞かせる言葉として出てきます。

体や獲物は打ち砕かれても、心まで負けたことにはならないという意味で、「打ち砕かれること」と「負けること」をはっきり分けているのが特徴です。

ヘミングウェイ本人の言葉ではなく、物語の中の老人の言葉である点は押さえておきたいところです。

サンチャゴの戦いと言葉は、光文社古典新訳文庫の小川高義訳(2014年)など、日本語訳で通して読めます。

著:アーネスト ヘミングウェイ, 原名:Hemingway,Ernest, 翻訳:高義, 小川
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毎日が新しい日なんだ

原文は「Every day is a new day.」で、不漁が続く中で沖へ出たサンチャゴが、心の中で考える場面に出てきます。

この一文には「運があるに越したことはないが、自分はむしろ正確でいたい」という意味の言葉が続きます。

前向きな励ましとして引用されることが多い言葉ですが、運に頼らず、毎日きちんと準備をしておこうとする老漁師の姿勢まで含めて読むと、印象が変わります。

『日はまた昇る』の名言

『日はまた昇る』は1926年に発表された長編で、第一次世界大戦後のパリとスペインを舞台に、戦争で傷ついた若者たちを描いています。

語り手のジェイク・バーンズは戦争で負った傷を抱えた記者で、名言の多くは彼の言葉です。

よその国へ行っても、自分から逃げることはできない

第2章で、南米へ行きたいと言う友人ロバート・コーンに、ジェイクはこう答えます。

「You can't get away from yourself by moving from one place to another.」

場所を変えても自分からは逃げられない、自分もそれは試したことがある、という意味です。

「旅をしても自分からは逃げられない」という形で紹介されることがありますが、もとは南米行きを考えるコーンに向けた会話の一部です。

昼間なら何ごとにも平気でいられるが、夜は別だ

第4章の終わりで、ジェイクは「It is awfully easy to be hard-boiled about everything in the daytime, but at night it is another thing.」と語ります。

昼間はどんなことにも平気な顔でいられても、夜になるとそうはいかないという意味です。

愛するブレットと結ばれない苦しさを、ひとりの夜にかみしめる場面で出てくる言葉です。

そう考えるのは、すてきじゃないか

小説の最後の一文が、ジェイクの「Isn't it pretty to think so?」です。

二人ならすばらしい時を過ごせたのに、と言うブレットに対し、ジェイクは「そう考えるのは、すてきじゃないか」とだけ返します。

かなわなかったことへの思いを、はっきり言葉にしないまま終わるこの一文は、ヘミングウェイの抑えた文体をよく表しています。

『日はまた昇る』の英語の原文は、著作権の切れた作品を公開しているサイトで読むことができます(出典:Project Gutenberg)。

『武器よさらば』『誰がために鐘は鳴る』『エデンの園』の名言

戦争と愛を描いた2つの長編と、死後に出版された小説からも、よく引用される言葉があります。

いずれも登場人物の言葉なので、場面とあわせて紹介します。

世界は誰をも打ち砕く(『武器よさらば』第34章)

『武器よさらば』は、第一次世界大戦のイタリア戦線を舞台に、アメリカ人の兵士フレデリック・ヘンリーと看護師キャサリンの恋を描いた小説です。

第34章で、フレデリックは「The world breaks every one and afterward many are strong at the broken places.」と語ります。

世界は誰をも打ち砕くが、その後、打ち砕かれた場所で強くなる者も多い、という意味です。

ただし原文はここで終わらず、打ち砕かれない者は殺される、世界はとても善い人も優しい人も勇敢な人も分け隔てなく殺す、と続きます。

「苦しみを経て強くなれる」という励ましとして紹介されることが多い言葉ですが、本来は戦争の中で人が無差別に失われていく厳しさを語る一節です。

この世はすばらしい場所で、戦うに値する(『誰がために鐘は鳴る』第43章)

『誰がために鐘は鳴る』は、スペイン内戦で橋の爆破を任されたアメリカ人ロバート・ジョーダンの数日間を描いた小説です。

最終章の第43章で、ジョーダンは「The world is a fine place and worth the fighting for and I hate very much to leave it.」と考えます。

この世はすばらしい場所で戦うに値する、だからここを去るのはとてもつらい、という意味です。

前半だけが名言として広まっていますが、原文には、死を前にした人物の「この世を去りたくない」という思いまで含まれています。

1995年の映画『セブン』の結末で、前半部分が引用されたことでも知られています。

知的な人間の幸福ほど、まれなものはない(『エデンの園』)

原文は「Happiness in intelligent people is the rarest thing I know.」です。

ヘミングウェイの死後、1986年に出版された小説『エデンの園』の中で、登場人物が口にする台詞です。

頭のいい人ほど考えすぎて幸せを感じにくい、という意味で引用されることが多い言葉ですが、本人の人生観として語られたものではありません。

本人の言葉として確かめられる名言

ヘミングウェイ本人の考えを知りたいときは、小説の台詞より、手紙やインタビュー、回想録に残る言葉が手がかりになります。

ここでは、出典までたどれる本人の言葉を紹介します。

人を信頼できる人間にするには、その人を信頼することだ(1953年の手紙)

ネットでは「誰かを信頼できるか確かめる一番よい方法は、その人を信頼してみることだ」という形で広まっている言葉があります。

もとになったとみられるのは、1953年2月17日にヘミングウェイが、若いころから親交のあったドロシー・コナブルに宛てた手紙です。

手紙には「The way to make people trust-worthy is to trust them.」と書かれており、人を信頼に足る人間にするには、その人を信頼することだという意味です。

その直前には、人を信頼するのをやめることはできないが、少し用心することは覚えた、という言葉もあります。

広まっている形は「相手を試す」言葉になっていますが、手紙では「信頼することで相手が信頼に足る人になる」という、少し違う意味で語られています。

最後のページは39回書き直した(1958年のインタビュー)

文芸誌『パリ・レビュー』の1958年のインタビューで、ヘミングウェイは執筆の習慣について詳しく語っています。

毎日、前の日に書くのをやめたところまで読み直して手を入れ、書き終えたら全体を見直すと話しています。

どれくらい書き直すのかと聞かれ、『武器よさらば』の最後のページは、納得するまでに39回書き直したと答えました(出典:The Paris Review)。

何が難しかったのかという問いへの答えは「Getting the words right.」で、正しい言葉を見つけることだったと語っています。

本当の文を、ひとつだけ書けばいい(『移動祝祭日』)

死後の1964年に出版された『移動祝祭日』は、1920年代のパリで作家を目指していたころを本人が振り返った回想録です。

書けなくなったとき、ヘミングウェイは「All you have to do is write one true sentence.」と自分に言い聞かせていたと書いています。

知っている中で一番本当の一文を書けばいい、そこから先へ進めばいい、という意味です。

本の冒頭には、若いころにパリで暮らせたなら、その後どこへ行ってもパリはついてくる、パリは移動祝祭日だからだ、という言葉が掲げられています。

この言葉は、1950年に友人へ語ったものとして紹介されており、本のタイトルの由来にもなっています。

ヘミングウェイの言葉ではない名言

ヘミングウェイは、本人の言葉ではない名言が特に多く結び付けられている作家です。

研究者の団体であるヘミングウェイ協会も、ネットで広まる名言の多くは本人の言葉として確かめられないと注意を呼びかけています。

心の底からやりたいと思わないなら、やめておけ

日本の名言サイトでは、ヘミングウェイの言葉として広く紹介されています。

ただし、本人の著作や手紙、インタビューで、この言葉にあたる英語の原文は確認できていません。

出典が示されないまま広まった言葉なので、ヘミングウェイの名言として使うのは避けたほうが安心です。

「酔って書け、しらふで直せ」と「タイプライターの前で血を流す」

「Write drunk, edit sober.」は、ヘミングウェイの言葉として世界中で引用されています。

しかし、名言の出典を調べているサイトQuote Investigatorは、ヘミングウェイの著作にこの言葉は見つからず、1964年のピーター・デ・ヴリースの小説『Reuben, Reuben』に近い表現が出てくると報告しています(出典:Quote Investigator)。

「書くことは簡単だ、タイプライターの前に座って血を流すだけだ」という言葉も、ヘミングウェイの言葉としては確かめられていません。

ヘミングウェイ協会は、この言葉を以前サイトに載せていたことを認めたうえで、本人の言葉と確かめられないとして差し替えています(出典:The Hemingway Society)。

同じ記事では、候補に挙がった22の名言のうち、本人の言葉と確かめられたのは11だけだったとも書かれています。

「失われた世代」と「誰がために鐘は鳴る」

作品に関係する有名な言葉の中にも、ヘミングウェイ本人の言葉ではないものがあります。

その代表が、次の2つです。

  • 「You are all a lost generation.(あなたたちはみな失われた世代だ)」は、作家ガートルード・スタインが会話の中で言った言葉として、『日はまた昇る』の冒頭に掲げられたもの
  • 「誰がために鐘は鳴る」は、17世紀のイギリスの詩人ジョン・ダンの文章から取られた言葉で、小説の冒頭にも引用されている

どちらもヘミングウェイが作品の冒頭に引いた他人の言葉で、作品と一緒に広まったため、本人の言葉と混同されやすくなっています。

ほかの作家の小説の名言もあわせて知りたい方は、小説の名言を作品と場面つきで紹介した記事も読んでみてください。

名言を原文で確かめるには

ヘミングウェイの名言を使うときは、次の順番で確かめると、誤った言葉を広めずにすみます。

  1. 英語の原文が示されているかを見る
  2. 作品名と章、手紙の日付、インタビューの媒体など、たどれる出典があるかを見る
  3. 小説の登場人物の台詞か、本人の言葉かを分ける
  4. 前後の文を読み、切り取りで意味が変わっていないかを確かめる

小説の台詞は、翻訳で前後の場面ごと読み返すのがいちばん確実です。

ヘミングウェイの名言に関するよくある質問

ヘミングウェイの一番有名な名言は何ですか?

『老人と海』の「人間は打ち砕かれることはあっても、負けはしない」がよく知られています。

本人の言葉ではなく、老漁師サンチャゴの言葉です。

「この世は素晴らしい。戦う価値がある」は誰の言葉ですか?

『誰がために鐘は鳴る』の主人公ロバート・ジョーダンの言葉です。

原文では、このあとに「だからここを去るのはとてもつらい」という意味の言葉が続きます。

「酔って書け、しらふで直せ」はヘミングウェイの言葉ですか?

いいえ、本人の著作では確認されていません。

1964年に出版された別の作家の小説に、近い表現が出てくるとされています。

ヘミングウェイの名言を英語で使ってもいいですか?

原文と出典を確かめられた言葉なら、英語で使っても問題ありません。

小説の台詞は、作品名と話し手を添えると誤解を防げます。

ヘミングウェイの名言のまとめ

ヘミングウェイの名言は、出典の作品や手紙と、本人の言葉か登場人物の台詞かまで確かめると、意味を正しく受け取れます。

有名な言葉の多くは小説の登場人物の台詞で、本人の考えは手紙やインタビュー、回想録に残る言葉から知ることができます。

持ち帰りたい一言を選ぶなら、『老人と海』の「人間は打ち砕かれることはあっても、負けはしない」です。

一方で、「心の底からやりたいと思わないなら、やめておけ」のように、出典が見つからないまま広まった言葉もあります。

気になった名言は、英語の原文と出典を確かめてから使ってください。

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Kotonoha

名言好きの個人ブロガーです。 研究者ではありませんが、ひとつの言葉について「誰が」「いつ」「どの場面で」語ったのかを確かめてから記事にしています。出典をたどれない言葉は、どれだけ有名でも「確認できない」と書きます。 アニメのセリフから偉人の言葉まで、背景ごと味わえる形でお届けします。

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