小説を読んでいて、たった一行が忘れられなくなることがあります。
ただ、ネットで「小説の名言」として紹介されている言葉には、どの作品のどこに出てくるのか確かめられないものも少なくありません。
小説の名言は、作品名と場面が分かってこそ、その一文の重さが伝わります。
短い名言は作品の書き出しや登場人物の一言に多く、太宰治や宮沢賢治の作品なら原文で一節を確かめられます。
一方、「運命は星が決めるのではない」は小説ではなく戯曲の台詞がもとです。
この記事のポイント
- 短い名言は、作品の書き出しや登場人物の一言に多い
- 太宰治や宮沢賢治の作品は、原文で一節を確かめられる
- 「運命は星が決めるのではない」は小説ではなく戯曲の台詞がもと
- 小説の名言として出回る言葉には、作品名を確認できないものがある
小説の短い名言を場面・テーマ別に解説
ここでは、原文や作品で確認できる短い一節を、書き出しの一文と、生き方に響く一文に分けて紹介します。
一言で心に残る小説の書き出し
小説の短い名言には、物語の最初の一文がそのまま名言として知られているものが多くあります。
「恥の多い生涯を送って来ました。」
太宰治『人間失格』の「第一の手記」の書き出しです(出典:青空文庫)。
主人公が自分の人生を振り返る、たった一文で、物語全体の暗さと告白の調子が決まっています。
書き出しの先を読みたくなったら、『人間失格』はKindle版ですぐに読み始められます。
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「メロスは激怒した。」
太宰治『走れメロス』の冒頭で、このあと暴君を除かなければならないという決意が続きます。
短い一文で主人公の性格と物語の勢いが伝わる、書き出しの代表例です。
「春が二階から落ちてきた。」
伊坂幸太郎『重力ピエロ』の冒頭の一文で、物語の結末でも同じ言葉が繰り返されます。
「春」は登場人物の名前で、弟が二階から飛び降りる場面を、季節が落ちてくるような言葉で描いています。
「完璧な文章などといったものは存在しない。完璧な絶望が存在しないようにね。」
村上春樹のデビュー作『風の歌を聴け』の冒頭に出てくる言葉です。
書くことへの迷いを語りながら、どんな絶望にも逃げ道が残っていると読める一文になっています。
生き方に響く小説の一文
書き出しだけでなく、物語の中で登場人物がたどり着く一文にも、よく引用される言葉があります。
「人間は恋と革命のために生れて来たのだ。」
太宰治『斜陽』で、没落していく家の娘かず子が、自分の生き方を決める場面で語る言葉です。
同じ作品には「いまの世の中で、一ばん美しいのは犠牲者です」という一文もあり、古い道徳と戦いながら生きる覚悟が表れています。
「私たちは、生きていさえすればいいのよ。」
太宰治『ヴィヨンの妻』の結末で、妻が夫に向けて語る言葉です。
夫がどれほどだらしなくても、生きていればそれでいいと言い切る強さが、短い言葉に込められています。
「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう。」
宮沢賢治『銀河鉄道の夜』で、旅の終わりに近づいたジョバンニがつぶやく言葉です。
答えを出すのではなく、問いのまま残すことで、読む人それぞれに「ほんとうのさいわい」を考えさせる一文になっています。
本文で紹介した太宰治の『人間失格』には、audiobook.jpの朗読版もあります。声で物語をたどりたいときは、作品の対象プランを確認して選べます。
\ 書き出しの続きを声でたどる /
聴き放題の対象作品や料金は変わることがあります。最新の対象プラン・料金・更新条件は公式サイトで確認してください。
作品の中の一節ではなく作家本人が語った言葉は、文豪たちの名言を紹介した記事で扱っています。
海外の小説の名言
海外の小説の名言は、翻訳によって言い回しが変わるため、原文とあわせて知っておくと意味がつかみやすくなります。
『星の王子さま』と『老人と海』
サン=テグジュペリ『星の王子さま』は、キツネが王子さまに「大切なものは目に見えない」と教える場面がよく知られています。
キツネやバラ、王様たちの言葉は、星の王子さまの名言を章と場面つきで紹介した記事で詳しく取り上げています。
ヘミングウェイ『老人と海』には、「A man can be destroyed but not defeated.」という一文があります。
巨大なカジキを釣り上げた老人が、それを狙うサメと戦う場面で語られる言葉です。
人は打ちのめされることはあっても、負けはしないという意味で、不屈の精神を表す一文として知られています。
『グレート・ギャツビー』『ライ麦畑でつかまえて』『赤毛のアン』
ほかにも、原文で確認できる海外小説の名言があります。
| 作品・作者 | 一節(原文) | 場面と意味 |
|---|---|---|
| 『グレート・ギャツビー』フィッツジェラルド | So we beat on, boats against the current, borne back ceaselessly into the past. | 物語の最後の一文で、流れに逆らって進んでも過去へ押し戻される人間の姿を描いている |
| 『ライ麦畑でつかまえて』サリンジャー | I'd just be the catcher in the rye | 主人公が妹に将来なりたいものを語る場面で、題名のもとになった言葉 |
| 『赤毛のアン』モンゴメリ | tomorrow is a new day with no mistakes in it yet | アンがマリラに、明日はまだ失敗のない新しい日だと語る場面 |
翻訳によって日本語の言い回しは違うため、気に入った一節は、自分が読む訳で確かめるのがおすすめです。
小説の名言として広まった誤引用・出典不明の言葉
小説の名言として紹介されている言葉の中には、作品のどこに出てくるのか確認できないものや、小説ではないものが混ざっています。
作品や場面を確認できない言葉
次の言葉は、小説の名言として紹介されることがありますが、作品のどの場面の一節かを確認できませんでした。
| 言葉 | 紹介されるときの出典 | 確認状況 |
|---|---|---|
| いつも自分はこうやって、何かが起こるのを待っている | 三島由紀夫『命売ります』 | 作品内の該当箇所を確認できない |
| 時間はあくまで同じ時間だ。一分は一分であり… | 記事によって異なる | 作品名と場面を確認できない |
| 存在しない完璧な平等を追い求めるのではなく… | 不明 | 引用ではなく要約文の可能性がある |
気に入った言葉であっても、人に紹介するときは作品の一節だと言い切らないほうが安心です。
小説ではない言葉と、作家の言葉とされる都市伝説
「運命は星が決めるのではない、われわれの想いが決めるのだ」は、小説の名言として紹介されることがあります。
しかし、もとになっているのはシェイクスピアの戯曲『ジュリアス・シーザー』で、キャシアスが運命について語る台詞です。
夏目漱石が「I love you」を「月が綺麗ですね」と訳したという話も有名ですが、漱石の作品や記録ではこの言葉は確認されていません。
漱石本人の言葉は、夏目漱石の名言を作品・テーマ別に紹介した記事で扱っています。
小説の名言を自分で探すには
本の中で心に残る一文を見つけたら、作品名とページ、場面を一緒に書き留めておくと、あとで人に伝えるときに困りません。
著作権の切れた日本の作品なら、青空文庫で原文を検索して、言葉が本当にその作品にあるかを確かめられます。
読書の中から名言を集める方法は、名言を本から探す方法をまとめた記事で詳しく紹介しています。
小説の名言に関するよくある質問
短くて有名な小説の名言にはどんなものがありますか?
太宰治『人間失格』の「恥の多い生涯を送って来ました」や、『走れメロス』の「メロスは激怒した」がよく知られています。
どちらも作品の書き出しの一文です。
「大切なものは目に見えない」はどの小説の言葉ですか?
サン=テグジュペリ『星の王子さま』で、キツネが王子さまに語る言葉です。
内藤濯の訳では「かんじんなことは、目に見えないんだよ」となっています。
「月が綺麗ですね」は夏目漱石の言葉ですか?
漱石の作品や記録では確認されていません。
後の時代に広まった逸話として扱うのが適切です。
小説の名言をSNSやスピーチで使うときの注意点は?
作品名と作者を添えて、短く引用するのが基本です。
出典を確認できない言葉は、作品の一節だと言い切らずに使いましょう。
小説の名言のまとめ
小説の名言は、作品名と場面を知ったうえで読むと、短い一文の奥にある物語が見えてきます。
短い名言は書き出しの一文に多く、生き方に響く言葉は登場人物が物語の中でたどり着く一文に多くあります。
持ち帰りたい一文を選ぶなら、答えのない問いを残す『銀河鉄道の夜』の「けれどもほんとうのさいわいは一体何だろう」です。
ネットで広まる言葉の中には、作品を確認できないものや小説ではないものも含まれています。
気に入った一節は、原文や自分の読む本で確かめてから使ってください。