ナイチンゲールの名言としてよく引用される、観察の大切さを説いた言葉は、『看護覚え書』の「病人の観察」の章にあります。
ただ、「犠牲なき献身こそ真の奉仕である」や「私は地獄を見た」は、本人の著作や記録に見当たらない言葉です。
ナイチンゲールの名言は、日本語の言葉だけでなく、英語の原文と『看護覚え書』の章や手紙などの出典まで確かめると、看護を科学として確立した彼女の看護観と生き方が正しく伝わります。
この記事では、フローレンス・ナイチンゲールの言葉を、看護観・観察・人生のテーマ別に英語の原文と出典つきで紹介し、本人の言葉ではないのに広まった名言まで解説します。
この記事のポイント
- 観察の大切さを説いた名言は、『看護覚え書』の「病人の観察」の章の言葉
- 看護の第一の原則は、空気を外気と同じくらい清浄に保つこと
- 「犠牲なき献身こそ真の奉仕である」は、本人の著作に見当たらない
- 「私は地獄を見た」という言葉も、本人が語った記録が見つかっていない
ナイチンゲールの名言一覧
この記事で紹介する主な言葉を、出典つきで一覧にします。
| 名言(意味) | 出典 | テーマ |
|---|---|---|
| 看護師に教えるべき最も大切なことは、何をどう観察するかである | 『看護覚え書』(1860年版) | 看護観・観察 |
| 病気とは、自然の回復過程である | 『看護覚え書』 | 看護観 |
| 病院の第一の条件は、病人に害を与えないことである | 『病院覚え書』 | 看護観 |
| 進まない制度は長続きしない | 『病人の看護と健康を守る看護』(1893年) | 仕事 |
| 私は言い訳をしたことも、受け入れたこともない | 手紙など | 人生 |
| 人生はすばらしい贈り物だ | 手紙 | 人生 |
ナイチンゲールとは
フローレンス・ナイチンゲールは、1820年にイギリス人の両親の旅行先だったイタリアのフィレンツェで生まれ、1910年に90歳で亡くなった看護師です。
1854年、クリミア戦争で看護団を率いてトルコのスクタリの野戦病院に赴き、換気や清掃、食事など病院の衛生を改善して、兵士の死亡率を大きく下げました。
夜にランプを持って病棟を見回る姿から「ランプの貴婦人」「クリミアの天使」と呼ばれ、帰国後の1860年には、ロンドンのセント・トーマス病院に看護学校をつくりました。
データをわかりやすい図に表して衛生改革の必要性を訴えた統計学者でもあり、誕生日の5月12日は「国際看護師の日」になっています。
ナイチンゲールの看護観を原典で読むなら、日本の看護教育で広く読まれている『看護覚え書』の訳書がおすすめです。
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看護観を表す名言
1859年に出版された『看護覚え書』(Notes on Nursing)には、ナイチンゲールの看護観の中心となる言葉が多く書かれています(参考:Project Gutenberg)。
看護師に教えるべき最も大切なことは、何を観察するか、どう観察するかである
『看護覚え書』の「病人の観察」の章の言葉で、原文は「The most important practical lesson that can be given to nurses is to teach them what to observe—how to observe」です。
同じ章には、正確な観察の習慣がなければ、どんなに献身的でも看護師としては役に立たない、という意味の言葉もあり、看護を心がけだけでなく、観察にもとづく実践としてとらえていたことがわかります。
看護の第一の原則は、患者が吸う空気を外気と同じように清浄に保つこと
『看護覚え書』の「換気と保温」の章の言葉で、ただし患者の体を冷やさずに、と続きます。
新鮮な空気、光、清潔、静けさ、食事など、患者のまわりの環境を整えることが看護の基本だという考え方で、今の看護教育でも大切にされています。
病気とは、自然の回復過程である
『看護覚え書』の序章の考え方で、病気は体が自然に回復しようとする働きだ、という意味です。
看護の役割は、その自然の力が最もよく働くように環境を整えることだ、というナイチンゲールの看護観の土台になっています。
病院の第一の条件は、病人に害を与えないことである
1863年版の『病院覚え書』の冒頭の言葉で、病院に求める最初の条件としては奇妙に聞こえるかもしれないが、と前置きされています。
不衛生な病院がかえって病気を広げていた時代に、患者の安全を第一に考えるべきだと訴えた言葉で、今の医療安全の考え方にも通じます。
仕事と組織についての名言
ナイチンゲールは、看護師であると同時に、病院や軍の仕組みを変えていった改革者でもありました。
進まない制度は長続きしない
1893年の『病人の看護と健康を守る看護』の言葉で、原文は「No system can endure that does not march」です。
日本では「進歩のない組織で持ちこたえたものはない」という訳で知られていますが、ここでの「system」は組織というより制度や仕組みを指していて、看護も進み続けなければならないという意味が込められています。
たとえマスタードの種のように小さくても、実際の始まりをすすめる機会を逃さない
ナイチンゲールの手紙の言葉で、小さな始まりが根を張って育っていくことはよくある、と続きます。
トイレの清掃や換気といった小さな改善から始めて、やがて陸軍全体の医療改革へと広げていった、ナイチンゲールの進め方そのものを表す言葉です。
人生についての名言
ナイチンゲールの手紙には、自分自身や友人に向けた、人生についての力強い言葉も残っています。
私は言い訳をしたことも、受け入れたこともない
自分の成功の理由を語った言葉で、原文は「I attribute my success to this—I never gave or took any excuse」です。
どんなに困難な状況でも、できない理由を探さずに行動し続けたナイチンゲールの、厳しい自己規律が伝わります。
人生はすばらしい贈り物だ
手紙の中の言葉で、原文は「Live your life while you have it. Life is a splendid gift. There is nothing small in it」です。
生きているうちに自分の人生を生きなさい、人生には小さなことなど何もない、という意味で、日々の一つひとつを大切にする姿勢が込められています。
困難に立ち向かった女性の言葉は、ヘレン・ケラーの名言を解説した記事でも紹介しています。
ナイチンゲールの言葉ではない名言
ナイチンゲールの名言として紹介される言葉の中には、本人の著作や手紙で確かめられないものもあります。
「犠牲なき献身こそ真の奉仕である」
日本の看護の世界で広く知られている言葉ですが、ナイチンゲールの著作や手紙には、この言葉そのものは見当たりません。
犠牲だけに頼る仕組みは長続きしないという彼女の考えを、のちに日本の看護の本の中でまとめた表現が、本人の言葉として広まったものと考えられています。
「天使とは、美しい花をまき散らす者ではなく、苦悩する者のために戦う者である」
1913年に出版された伝記の中の、天使とは花をまき散らす人ではなく、人の嫌がる仕事をする人だ、という趣旨の文がもとになっています。
日本で名言集などに収められるうちに、より劇的な言い回しに書き換えられて広まったと考えられます。
「私は地獄を見た。私は決してクリミアを忘れない」
クリミア戦争の体験を語った言葉として紹介されますが、ナイチンゲールの手紙や記録の中には見当たりません。
ナイチンゲールの名言に関するよくある質問
看護観を表すナイチンゲールの名言は?
『看護覚え書』の、看護師に教えるべき最も大切なことは何をどう観察するかである、という言葉がよく挙げられます。
「犠牲なき献身こそ真の奉仕である」はナイチンゲールの言葉ですか?
本人の著作や手紙には見当たらず、のちに日本でまとめられた表現が広まったと考えられています。
ナイチンゲールの人生についての名言は?
「人生はすばらしい贈り物だ」や、「私は言い訳をしたことも、受け入れたこともない」が知られています。
『看護覚え書』はいつ書かれた本ですか?
1859年に出版され、翌年に改訂版が出ました。
ナイチンゲールの名言まとめ
ナイチンゲールの名言は、日本語の言葉だけでなく、英語の原文と『看護覚え書』の章や手紙などの出典まで確かめると、看護を科学として確立した彼女の看護観と生き方が正しく伝わります。
観察を大切にし、環境を整え、患者に害を与えないことを第一に考える言葉には、今の看護にも通じる看護観の原点があります。
一方で、「犠牲なき献身」のように、のちにまとめられた言葉が本人の名言として広まった例もあります。
持ち帰りたい一言を選ぶなら、「人生はすばらしい贈り物だ」です。
気になった言葉は、『看護覚え書』や手紙にあたって、前後の文章ごと味わってみてください。