« L'essentiel est invisible pour les yeux. » は、『星の王子さま』の第21章で、キツネが別れぎわに王子さまへ打ち明ける「秘密」の一節です。
『星の王子さま』の名言は、一文だけを切り取るより、誰が誰に語った場面かを知ると、愛・友情・責任というテーマがずっと深く見えてきます。
キツネの言葉は、バラとすれ違ったまま星を出てきた王子さまの後悔に答えるもので、砂漠で井戸をさがす夜には、王子さまと飛行士がその教えを自分の言葉で語り直します。
フランス語の原文と日本語訳を見比べると、訳者によって同じ言葉の印象が変わることにも気づきます。
この記事のポイント
- 「大切なものは目に見えない」は第21章でキツネが王子さまに語る言葉
- キツネ・バラ・6つの星の大人・ヘビなど、話し手ごとに22の言葉を章と場面つきで紹介
- 「かんじんなこと」「いちばんたいせつなこと」など訳者で変わる言い回しを比較
- 「愛するとは同じ方向を見ること」は『星の王子さま』の本文には出てこない
星の王子さまの名言一覧
この記事で紹介する22の言葉を、話し手と聞き手、出てくる章つきで一覧にします。
言葉の欄は、原文の意味を短くまとめたものです。
| 言葉(意味の要約) | 話し手→聞き手 | 章 |
|---|---|---|
| 飼いならすとは、絆をつくること | キツネ→王子さま | 第21章 |
| 飼いならせば、お互いがこの世でひとつだけの存在になる | キツネ→王子さま | 第21章 |
| 4時に来るなら、3時から幸せになる | キツネ→王子さま | 第21章 |
| 心で見なければよく見えない、大切なものは目に見えない | キツネ→王子さま | 第21章 |
| バラのために使った時間が、バラを大切なものにした | キツネ→王子さま | 第21章 |
| 飼いならしたものには、いつまでも責任がある | キツネ→王子さま | 第21章 |
| おとなも、はじめはみんな子どもだった | 作者→レオン・ヴェルト | 献辞 |
| おとなは数字が好き | 語り手→読者 | 第4章 |
| とても悲しいときは、夕日が見たくなる | 王子さま→飛行士 | 第6章 |
| ひとつしかない花を愛していれば、星を見るだけで幸せになれる | 王子さま→飛行士 | 第7章 |
| 言葉ではなく、することで判断すべきだった | 王子さま→飛行士 | 第8章 |
| チョウを知りたいなら、毛虫の2、3匹はがまんする | バラ→王子さま | 第9章 |
| 自分を裁くのは、人を裁くよりずっとむずかしい | 王様→王子さま | 第10章 |
| ぼくが持っていることは、火山や花の役に立っている | 王子さま→ビジネスマン | 第13章 |
| あの人だけは、こっけいに見えない | 王子さま(心の中) | 第14章 |
| 花は、はかない | 地理学者→王子さま | 第15章 |
| 人の中にいても、ひとりだ | ヘビ→王子さま | 第17章 |
| 自分が何をさがしているか知っているのは、子どもたちだけ | 王子さま→転てつ手 | 第22章 |
| 砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているから | 王子さま→飛行士 | 第24章 |
| 目では見えない、心でさがさなくちゃ | 王子さま→飛行士 | 第25章 |
| きみには、笑うことのできる星がある | 王子さま→飛行士 | 第26章 |
| 空を見上げて、ヒツジが花を食べたか考えてみて | 語り手→読者 | 第27章 |
章の番号は、献辞のあとに続く全27章の番号です。
話し手の欄を見ると、名言の多くが王子さまとキツネ、そして王子さまと飛行士の会話から生まれていることがわかります。
『星の王子さま』とはどんな物語か
名言の場面をたどる前に、作品と作者の基本を確認しておきます。
『星の王子さま』(原題 Le Petit Prince)は、フランスの作家で飛行士でもあったサン=テグジュペリの物語で、1943年にアメリカで、1946年にフランスで初めて出版されました(出典:Le Petit Prince 公式サイト「The book」)。
作者は1900年6月29日にリヨンで生まれ、自由フランス軍に加わったあと、1944年7月31日に任務の飛行中に撃墜されています。
物語の挿絵も作者が自分で描いたもので、日本では岩波書店から内藤濯(ないとう・あろう)の訳で出版されてきました(出典:岩波書店「星の王子さま(岩波少年文庫)」)。
物語は、サハラ砂漠に不時着した飛行士が、小さな星からやってきた王子さまと出会うところから始まります。
王子さまは、自分の星に咲いた一輪のバラとうまくいかなくなって旅に出て、6つの小さな星をめぐったあと、地球にたどり着きました。
地球ではヘビやキツネと出会い、砂漠で飛行士と過ごした日々を、語り手となった飛行士が6年後にふり返って書く、という形になっています。
海外の小説の一節をほかの作品と見比べたい方は、小説の名言を作品と場面つきで紹介した記事もあわせて読んでみてください。
キツネが王子さまに教えた言葉(第21章)
『星の王子さま』の名言としてもっともよく知られているのは、第21章でキツネが王子さまに語る言葉です。
この章の王子さまは、自分の星のバラと同じ花が、地球の庭にたくさん咲いているのを見て、自分のバラはありふれた花だったのかと落ちこんでいます。
飼いならすとは「絆をつくること」
王子さまに「いっしょに遊ぼう」と誘われたキツネは、まだ飼いならされていないから遊べない、と答えます。
飼いならす(apprivoiser)とはどういうことかと聞かれて、キツネは « créer des liens »、つまり絆をつくることだと説明します。
動物をしつけるような言葉を使いながら、キツネが話しているのは、相手と時間をかけて関係を結ぶことです。
この一言が、第21章のあとの言葉すべての土台になっています。
お互いが「この世でひとつだけの存在」になる
キツネは、今のきみはぼくにとって、ほかの10万人の男の子と変わらない、と王子さまに言います。
そのうえで、もし飼いならしてくれたら、お互いにとって « unique au monde »(この世でひとつだけ)の存在になる、と続けます。
パンを食べないキツネにとって麦畑は何の意味もありませんが、仲よくなれば、金色の麦を見るたびに王子さまの金色の髪を思い出せるようになる、とも話します。
誰かと絆ができると、その人に関係のある景色まで特別なものに変わる、と受け取れる言葉です。
このあとキツネは、人間たちはもう何かを知る時間を持たず、店で出来あいの品を買うけれど、友だちを売っている店はないから、人間には友だちがいない、と話します(原文 « Les hommes n'ont plus le temps de rien connaître. »)。
そして、友だちがほしいなら自分を飼いならして、と王子さまに頼みます。
絆はお金で買えるものではなく、時間をかけてつくるしかない、という考えがはっきり示される場面と読むことができます。
4時に来るなら、3時から幸せになる
キツネは、仲よくなるには辛抱づよさが必要で、毎日少しずつ近くに座るのがいいと教えます。
はじめは草の上に少し離れて座り、キツネが横目で見ていても、王子さまは何も言わないように、とキツネは言います。
その理由として添えられるのが « Le langage est source de malentendus. »(言葉は誤解のもとだ)という一文です。
言葉を重ねるより、そばにいる時間を重ねるほうが、相手との距離は縮まるという考え方として受け取れます。
そして、きみが午後4時に来るなら、ぼくは3時から幸せになりはじめる、と話します(原文 « dès trois heures je commencerai d'être heureux »)。
同じ時刻に来ることで、待つ時間そのものが楽しみに変わるという考え方で、キツネはこれを「ならわし(rite)」と呼んでいます。
会う前から心がはずむ気持ちは、友だちや恋人を待ったことのある人なら、覚えのある感覚です。
心で見なければよく見えない、大切なものは目に見えない
キツネは別れぎわに、王子さまに「秘密」を教えます。
原文は « On ne voit bien qu'avec le cœur. L'essentiel est invisible pour les yeux. » です。
この直前、王子さまはキツネに言われてバラの庭へ戻り、そこに咲く花たちに、きみたちは美しいけれど中身がからっぽだ、と言ってきたところでした。
見た目が同じバラでも、王子さまが世話をしてきた一輪だけは、ほかの花とまったく違う、ということを王子さま自身が言葉にしたあとで、キツネはその理由をこの「秘密」で示します。
王子さまは、忘れないように、この言葉をくり返してから去っていきます。
バラのために使った時間が、バラを大切なものにした
キツネは続けて、きみのバラをそんなに大切なものにしたのは、きみがバラのために費やした時間だ、と言います。
原文は « C'est le temps que tu as perdu pour ta rose » で始まり、動詞は perdre です。
perdre は「失う」「むだにする」という意味の言葉で、効率よく使った時間ではなく、損をしたようにさえ見える時間が、相手をかけがえのない存在にする、というニュアンスが読み取れます。
日本語訳で「費やした」と読むよりも、少し苦みのある言葉だとわかると、印象が変わる一文です。
飼いならしたものには、いつまでも責任がある
キツネが最後に伝えるのが、責任についての言葉です。
人間はこの真理を忘れてしまったけれど、きみは忘れてはいけない、と前置きして、飼いならしたものには « responsable pour toujours »(いつまでも責任がある)と言い、きみはバラに責任がある、と続けます。
王子さまはこの言葉もくり返し、あとの第26章でも、自分の花に責任があると飛行士に打ち明けます。
絆をつくることは楽しいだけでなく、相手を引き受けることでもある、という教えで、愛や友情の言葉として引用されることの多い一節です。
語り手が書いた「おとな」についての言葉
物語の語り手は、子どものころの気持ちを忘れたおとなを、ユーモアをまじえて描いています。
おとなも、はじめはみんな子どもだった(献辞)
本文の前に置かれた献辞で、作者は親友のレオン・ヴェルトにこの本をささげています。
子どもたちに、おとなに本をささげたことをわびて、いくつか理由をあげたあと、作者は « Toutes les grandes personnes ont d'abord été des enfants. » と書き、それを覚えているおとなは少ない、と付け足します。
そして献辞を「子どもだったころのレオン・ヴェルトへ」と書き直します。
ヴェルトは戦時中のフランスで、おなかをすかせ、寒い思いをしている人として紹介されていて、この献辞は遠くにいる友人をなぐさめる手紙のようにも読めます。
おとなは数字が好き(第4章)
第4章で語り手は、王子さまの星が小惑星B612だと、わざわざ番号で紹介した理由を説明します。
その理由が « Les grandes personnes aiment les chiffres. » という一文です。
新しい友だちの話をしても、おとなは声の感じや好きな遊びを聞かず、年齢や収入のような数字ばかり聞きたがる、と語り手は続けます。
数字でしか物事を測れないおとなへの皮肉で、第1章で6歳の語り手が描いたウワバミの絵を、おとなたちが帽子の絵だと思いこんだ話ともつながっています。
王子さまとバラの言葉(第6〜9章)
キツネの言葉を深く理解するには、王子さまが星に残してきたバラとのいきさつを知っておく必要があります。
とても悲しいときは、夕日が見たくなる(第6章)
王子さまは、とても小さな自分の星では、椅子を少し動かすだけで、見たいときに何度でも夕日を見られたと飛行士に話します。
そのうえで、とても悲しいときは夕日が見たくなるんだ、と言います(原文 « quand on est tellement triste on aime les couchers de soleil »)。
何度も夕日を見たというその日、そんなに悲しかったのかと飛行士がたずねても、王子さまは答えません。
理由を語らない沈黙が、王子さまのさびしさをかえって強く伝えている場面です。
ひとつしかない花を愛していれば、星を見るだけで幸せになれる(第7章)
第7章で、飛行機のエンジンの修理に追われる飛行士は、王子さまの質問に、今は大事なことで忙しい、と答えてしまいます。
王子さまは怒って、何百万もの星の中にひとつしかない花を愛している人は、星を見るだけで幸せになれる、と言い、泣きだします。
ヒツジがその花を食べてしまうかもしれないことが、王子さまにとってはどんな仕事よりも大事なことでした。
何を「大事」と考えるかで、おとなと子どもが食い違う場面で、飛行士はこのあと工具を置いて王子さまをなぐさめます。
言葉ではなく、することで判断すべきだった(第8章)
第8章では、王子さまがバラとの暮らしをふり返ります。
見栄っぱりなバラの言葉をまに受けて苦しんだ王子さまは、のちに、言葉ではなく、することで判断すべきだった、と飛行士に打ち明けます(原文 « J'aurais dû la juger sur les actes et non sur les mots. »)。
そして、若すぎて、花の愛し方がわからなかった、とも語っています。
相手の態度の裏にある気持ちに気づけなかった後悔は、恋愛だけでなく、家族や友人との関係にも重ねて読むことができます。
チョウを知りたいなら、毛虫の2、3匹はがまんする(第9章)
王子さまが星を出ていく朝、バラははじめて素直になり、あなたを愛していると伝えます。
ガラスのおおいをかけようとする王子さまに、バラはもういらないと言い、チョウを知りたいなら毛虫の2、3匹はがまんしなくちゃ、と話します(原文 « deux ou trois chenilles si je veux connaître les papillons »)。
美しいものと出会うには、少しのいやなことも引き受けるという、強がりの中に覚悟がまじった言葉です。
泣き顔を見せたくないバラの気持ちまで描かれていて、第8章の後悔と合わせて読むと、二人のすれ違いがよくわかります。
6つの星で出会った大人たちの言葉(第10〜15章)
旅に出た王子さまは、王様、うぬぼれ屋、酒飲み、ビジネスマン、点灯夫、地理学者が一人ずつ住む6つの星をめぐります。
どの大人も少しずつおかしく描かれていますが、その会話の中に、今読んでもはっとする言葉があります。
自分を裁くのは、人を裁くよりずっとむずかしい(第10章)
最初の星の王様は、何にでも命令したがる人物で、王子さまを法務の大臣にしようとします。
星にはほかに誰もいないから裁く相手がいない、と言う王子さまに、王様は、それなら自分を裁けばいい、と答えます。
そして、自分を裁くのは人を裁くよりずっとむずかしく、うまく自分を裁けたら本当の賢者だ、と続けます(原文 « Il est bien plus difficile de se juger soi-même que de juger autrui. »)。
こっけいな王様の口から出たとは思えないほどまっとうな言葉で、他人の欠点には気づいても自分のことは見えにくい、という誰にでも思い当たる弱さを言い当てています。
ぼくが持っていることは、火山や花の役に立っている(第13章)
4番目の星のビジネスマンは、星を数えては、それを自分のものだと言い張っています。
« Je suis sérieux, moi »(わたしは大事な仕事をしているんだ)が口ぐせの男に、王子さまは、自分は毎日水をやる花と、掃除をしている火山を持っている、と話します。
そして、ぼくが持っていることは火山や花の役に立っているけれど、あなたは星の役に立っていない、と言い返します(原文 « C'est utile à mes volcans, et c'est utile à ma fleur, que je les possède. »)。
持っていることの価値を、所有する側ではなく、持たれている側にとってどうかで考える王子さまの視点は、キツネの「責任」の言葉にもつながっています。
あの人だけは、こっけいに見えない(第14章)
5番目の星には、1分で1日が過ぎてしまう小さな星で、街灯をつけては消し続ける点灯夫がいます。
命令だから、とくり返す点灯夫を見て、王子さまは、あの人だけはこっけいに見えない、と心の中で思います。
その理由を王子さまは、たぶん自分以外のことに取り組んでいるからだ、と考えます(原文 « parce qu'il s'occupe d'autre chose que de soi-même »)。
ほかの大人たちが自分の権力や名誉や持ち物のことばかり考えていたのと比べると、誰かのために働くことの尊さが浮かび上がる場面です。
花は、はかない(第15章)
6番目の星の地理学者は、山や海は記録しても、花は記録しないと言います。
その理由が « Parce que les fleurs sont éphémères. » で、éphémère(はかない)とは近いうちに消えてしまうおそれがあることだ、と説明します。
王子さまはこのとき初めて、自分の花がいつか消えてしまうことに気づき、星に残してきたことを後悔します。
物語の中で、王子さまが「後悔」をはっきり感じるのはここが最初で、このあと地理学者に勧められて地球へ向かいます。
地球と砂漠の夜に語られた言葉(第17〜27章)
地球に着いてから物語の終わりまでには、孤独や別れ、そして残された人への思いを語る言葉が続きます。
人の中にいても、ひとりだ(第17章)
地球の砂漠に降りた王子さまが最初に出会うのは、ヘビでした。
砂漠は少しさびしいね、と言う王子さまに、ヘビは、人の中にいてもさびしいものさ、と答えます(原文 « On est seul aussi chez les hommes »)。
人が大勢いる場所にいても孤独は消えない、という言葉で、のちにキツネが語る「絆」の話と対になっていると読むことができます。
自分が何をさがしているか知っているのは、子どもたちだけ(第22章)
第22章で王子さまは、急行列車を行ったり来たりさせている転てつ手と話します。
列車の乗客は何をさがしているのかわからないまま移動していて、窓に鼻を押しつけて外を見ているのは子どもたちだけでした。
王子さまは、自分が何をさがしているか知っているのは子どもたちだけだ、と言い、子どもはぼろ布の人形のために時間を使い、その人形がとても大切なものになる、と続けます(原文 « Les enfants seuls savent ce qu'ils cherchent »)。
人形のために使った時間が人形を大切にするという話は、キツネが教えたバラの時間の話をそのまま受け継いでいます。
砂漠が美しいのは、どこかに井戸をかくしているから(第24章)
不時着から8日目、水が尽きた飛行士は、王子さまと夜の砂漠を歩いて井戸をさがします。
星がきれいなのは見えない花があるからだ、と言った王子さまは、やがて、砂漠が美しいのはどこかに井戸をかくしているからだ、と言います(原文 « c'est qu'il cache un puits quelque part »)。
飛行士はこのとき、子どものころに住んでいた古い家に宝物がうめてあるという言い伝えがあり、それが家全体を魅力的にしていたことを思い出します。
この井戸の言葉は第25章ではなく第24章の言葉で、実際に井戸にたどり着くのは次の第25章です。
目では見えない、心でさがさなくちゃ(第25章)
見つけた井戸の水を二人で飲んだあと、王子さまは、地球の人たちはひとつの庭に5千本ものバラを育てているのに、さがしているものを見つけられない、と話します。
さがしているものは、たった一輪のバラや少しの水の中に見つかるかもしれないのに、と言い、目では見えない、心でさがさなくちゃ、と続けます(原文 « Il faut chercher avec le cœur. »)。
キツネから教わった「秘密」を、王子さまが自分の体験をもとに言い直した言葉と受け取れます。
飛行士にとってその水は、星の下を歩いた夜や、滑車の音、自分の腕でくみ上げた苦労から生まれたものに感じられた、という思いも、この章に書かれています。
きみには、笑うことのできる星がある(第26章)
地球に来てちょうど1年になる夜、王子さまはヘビの力を借りて自分の星へ帰ろうとしています。
王子さまは、人によって星の意味は違うと話し、旅人には道しるべ、学者には研究の対象になるけれど、きみには笑うことのできる星がある、と飛行士に告げます(原文 « Tu auras, toi, des étoiles qui savent rire ! »)。
夜空のどこかの星で自分が笑っていると思えば、飛行士にはすべての星が笑っているように見える、という別れの贈り物です。
悲しみがすぐに消えなくても、いつか会えてよかったと思える日が来る、という王子さまの言葉は、大切な人を見送った経験のある読者の心にも静かに届きます。
空を見上げて、ヒツジが花を食べたか考えてみて(第27章)
最終章の第27章は、王子さまがいなくなってから6年たった語り手の言葉です。
語り手は読者に、空を見上げて、ヒツジがあの花を食べたかどうか考えてみてほしい、そうすればすべてが変わって見えるはずだ、と呼びかけます(原文 « Regardez le ciel. »)。
そして、それがどれほど大事なことか、おとなには決してわからないだろう、と書き添えます。
献辞と第4章で描かれた「数字が好きなおとな」への問いかけが、最後にもう一度、読者に向けて投げかけられる結末です。
「大切なものは目に見えない」は形を変えて何度も出てくる
キツネの「秘密」は第21章だけで終わる言葉ではなく、物語のはじめから終わりまで、別の人物が別の形でくり返しています。
この言葉につながる場面は、次の4つです。
- 第1章で、おとなたちがウワバミの絵の中身を見ようとせず、帽子だと思いこむ場面
- 第21章で、キツネが別れぎわに王子さまへ「秘密」を教える場面
- 第24章で、眠った王子さまを抱いて歩く飛行士が、いちばん大切なものは目に見えないと心の中で考える場面
- 第25章で、王子さまが井戸の水を飲んだあと、心でさがさなくちゃと語る場面
第24章の飛行士は、今見ているのは外側の皮にすぎない、とも考えていて、キツネとは違う言い回しで同じ考えにたどり着いています。
つまり、この言葉はキツネが一方的に教えた格言ではなく、王子さまと飛行士が自分の体験を通して受け取り直していく考え方として描かれています。
「大切なものは目に見えない」という一文だけを知っているより、物語の中で何度も形を変えて出てくることを知っていると、言葉の重みがかなり違って感じられます。
原文と日本語訳で変わる言葉の印象
『星の王子さま』は日本で多くの訳者が訳していて、同じ一文でも訳によって受け取り方が変わります。
題名『星の王子さま』は最初の訳者がつけた
原題の Le Petit Prince をそのまま訳すと「小さな王子さま」で、『星の王子さま』という題は最初の訳者である内藤濯の考えたものです。
日本では長いあいだ内藤濯の訳だけが読まれてきましたが、2005年1月に日本での著作権が切れたことで、同じ年の6月から新しい訳が次々に出版されました(出典:学習院大学図書館 展示資料「サン=テグジュペリ―王子さまとその時代―」)。
新しい訳の多くも『星の王子さま』の題を引き継いでいて、この題名がどれほど日本の読者に親しまれているかがわかります。
キツネの「秘密」の訳し比べ
« L'essentiel est invisible pour les yeux. » の l'essentiel の部分は、訳者によって言葉が分かれます。
内藤濯の訳では「かんじんなこと」という言葉が使われています。
一方、2006年に新潮文庫から出た河野万里子の訳では「いちばんたいせつなこと」とされています(出典:新潮社「星の王子さま」河野万里子訳)。
「かんじん」は物事の中心となるところ、「いちばんたいせつ」は気持ちのうえで手放せないもの、という響きがあり、どちらで覚えているかによって言葉の印象が少し変わります。
ネットでよく見かける「大切なものは目に見えない」という形は、訳によって細部が違うため、引用するときは自分が読んだ訳で確かめると安心です。
キツネの言葉を新しい訳で読み直すなら、文庫で手に取りやすい河野万里子訳がひとつの選択肢です。
\ 読み慣れた言葉を新しい訳で /
「飼いならす」の訳しにくさ
キツネが何度も口にする apprivoiser は、「飼い慣らす」「手なずける」「なつかせる」「なじみになる」などと訳されてきましたが、どれも日本語の文の中で自然に使うのはむずかしい言葉だと指摘されています。
2005年に論創社から新訳を出した三野博司は、キツネの教えに出てくる言葉はできるだけ同じ訳語で通す方針をとり、apprivoiser を「手なずける」、créer des liens を「絆をつくる」と訳したと説明しています。
同じ言葉を同じ訳語でくり返すと、キツネの口ぐせのような響きが残り、場面ごとに訳し分けると日本語としては読みやすくなる、という違いがあります。
「まじめな大人」は訳者によって別人になる
第1章で語り手がつきあってきたと書く gens sérieux という大人たちは、訳者によって次のように訳し分けられています(出典:志村響「『星の王子さま』日本語訳対照研究──sérieux の訳語をめぐって」東京都立大学)。
- 内藤濯訳は「えらい」人たち
- 池澤夏樹訳は「重要人物」
- 河野万里子訳は「有能な」人たち
- 三野博司訳と野崎歓訳は「まじめな」人々
sérieux は第13章のビジネスマンの口ぐせにも使われていて、「まじめ」と訳すか「大事」と訳すかで、作者がおとなに向けた皮肉の伝わり方が変わります。
同じ名言でも、気に入った訳がある場合は、引用するときに訳者の名前を添えておくと、どの言い回しなのかが相手にも伝わります。
『星の王子さま』の名言として広まっているが本文にない言葉
サン=テグジュペリの言葉として広まっている中には、『星の王子さま』の本文には出てこない言葉もあります。
フランス語の本文で確かめたところ、次の言葉は『星の王子さま』の中に見つかりませんでした。
- 愛するとは、見つめ合うことではなく、同じ方向を見つめること
- 夢があなたの人生を食べてしまうように
- 計画のない目標は、ただの願いにすぎない
1つ目は結婚式のスピーチでもよく使われる言葉で、作者の別の著書『人間の土地』(原題 Terre des hommes、1939年)の最終章にある一節です(出典:SchoolMouv「Terre des hommes」)。
2つ目と3つ目も作者の名前で紹介されることがありますが、どの著作のどこにある言葉かは確認できませんでした。
「星の王子さまの名言」として引用するなら、キツネや王子さまの言葉のように、章と場面まで確かめられる言葉を選ぶと安心です。
星の王子さまの名言に関するよくある質問
『星の王子さま』でいちばん有名な名言は?
第21章でキツネが王子さまに教える「秘密」、心で見なければよく見えない、大切なものは目に見えない、という言葉がもっとも広く知られています。
『星の王子さま』は何章まである?
本文の前に献辞があり、そのあとに全27章が続きます。
作者のサン=テグジュペリはどんな人?
1900年にフランスのリヨンで生まれた作家で、郵便機などを操縦する飛行士でもありました。
1944年7月31日、自由フランス軍の任務で飛び立ったまま撃墜され、帰ってきませんでした。
名言を引用するとき、訳者の名前は書いたほうがいい?
書いておくのがおすすめです。
日本語訳は訳者によって言い回しが大きく違うため、訳者名を添えると、どの本のどの言葉なのかが相手に正しく伝わります。
星の王子さまの名言のまとめ
『星の王子さま』の名言は、キツネ、バラ、6つの星の大人たち、そして飛行士と、話し手と聞き手を知ることで意味がぐっと深まります。
キツネの「秘密」は、バラとすれ違った王子さまの後悔に答える言葉で、そのあと王子さまと飛行士が、それぞれ自分の言葉で受け取り直していきます。
原文と日本語訳を見比べると、同じ一文でも訳者によって響きが変わることもわかります。
持ち帰りたい言葉をひとつ選ぶなら、バラのために使った時間が、バラを大切なものにした、というキツネの言葉です。
誰かのために使った時間を思い出しながら、もう一度物語を読み返してみてください。